先日、仕事で自分の担当する業務内容に変更がありました。
それに伴い、
「気持ちを入れ替える為に手帳を買い替えたいな。」
ふと思ったのです。
そして、
「どうせ買い替えるならいいものを使いたい!」
という物欲が、
普段モノをあまり買わない僕にも久々に湧いてきました。
文具のブランドに詳しくない僕が向かった先は、
そう「エルメス」です。
安直ですがなぜか、僕の中で「エルメス」は最高級のトータルアイテムを扱っているブランドというイメージがあったのです。
下調べとして、価格をグーグル検索してみると…
手帳は、どれも余裕の十万円越え…
なんの変哲のないリングノートですら一万円…
さらに、興味本位で調べたバッグなどに至っては、百万円以上…
一般庶民のサラリーマンは降参です。
そのまま、駅ビルに入っている文具店に向かいました。
「いくら何でも高すぎやろ~」
と半べそをかきながらコクヨの手帳を片手に帰宅しているうちに、
エルメスがそれだけ高い価格設定でありながら、
世界中で誰も知っているほどの抜群の知名度と支持を受けている理由が、
気になってきました。
その勢いで購入した書籍が、『エスプリ思考』です。
エルメスのブランドヒストリーやその経営理念を紐解く内容となっています。
- 作者:川島 蓉子
- 発売日: 2013/04/18
- メディア: 単行本
今回の記事では、その内容から僕なりに疑問をもった5つの部分について、
独自のフレームワークで、考察をしていきたいと思います。
5Pのフレームワークで分析
一般的にマーケティングの企業分析で使用されるのは、以下の4Pです。
- Product⇒商品
- Price⇒価格
- Place⇒物流
- Promotion⇒宣伝
しかし、エルメスの場合は、4要素のすべてに共通してPhilosophy(企業理念)が、
深く根付いているということを感じました。
そこで、
- Philosophy⇒企業理念
を加えた5つの要素に分解して考察をしていきたいと思います。
Philosophy
歴史
エルメスは初代ティエリ・エルメス氏が1837年に高級馬具メーカーとしてパリのランパール通りにアトリエを開いたのが、歴史の始まりです。
貴族をはじめとした富裕層に、馬具の技術力の高さが評価されていました。
しかし、20世紀に入ると、人々の移動手段として馬車の代わりに大量生産大量消費型の自動車が普及してきます。
三代目のミエール・モーリス氏は、優れた職人たちの技術を活かして、家業を継続していくにはどうすればよいのか?という課題に直面したのです。
そこで、彼らが着目したのが「自動車で移動するときに必要なもの」という視点でした。
財布や鞄などの新しい商品分野を切り開くことで、馬具製作の優れた技術を活かしたのです。
そして、現在までには洋服、時計、インテリア、食器まであらゆる商品分野まで拡大をしています。
思想
ブランドとしての主力製品は、馬具からファッションアイテムという大胆なシフトを行ったエルメスですが、変えていないものもあります。
それは、「大量生産・大量消費」が美徳とされた20世紀において、一切それを行わなかったことです。
「最高のものを提供して、生活を豊かにする」
ブランドとしての思想を重んじたのです。
それゆえ彼らは、職人の手でつくるアナログな「少量生産・少量消費」にこだわりを持ち続けて、19世紀に培われた技術力を継承し続けたのです。
ファミリービジネス
エルメスのような世界的なブランドの多くは、ヨーロッパ各地の家業から派生した
ファミリービジネスが主体でした。
しかし、昨今ファミリービジネスは、ルイヴィトンを参加に置くLVMHグループのような巨大資本をもった大企業に買収をされ合理的な経営が行われています。
そのようなビジネス情勢の中でも、エルメスはいまだにファミリー経営を継続しています。
それによって、価値観や理念を語り継ぐ文化が今なお、継承されているのです。
Product
職人の技術
通常の工業製品と呼ばれるものは、トヨタのカンバン方式に代表されるように効率化を高める為に分業制で行われていることがほとんどです。
しかし、エルメスの製品は一人の職人が最初から最後まですべてを製作します。
彼らは、製作を終えた商品にシグネチャーと呼ばれる自分のサインを入れることに、
非常に誇りを持っています。
しかも、職人たちはたった1つのバッグだけでなく、
様々なデザインやアイテムを製作する能力を個々人が持っているのです。
それだけ、高い技術力に裏打ちされた商品の提案を行っているということがうかがえます
希少性
エルメスは素材の調達能力もスバ抜けています。
ヨーロッパは、鞄や財布の原材料である「革」の品質が高いことで有名ですが、
その中でもトップクラスの品質の革だけを選別して調達しています。
さらに、それらの希少素材を使用して、作業を行う熟練の職人たちも、
じっくりと商品を作っていくのです。
一つのバッグを仕上げるのに18時間を要するのです。
この「素材」×「人材」の掛け合わせこそが、
唯一無二の存在であり、商品の多くが入荷待ちの状態であっても、
顧客からの注文が途絶えない理由ではないでしょうか。
クリエイティビティ
エルメスは、ユニークなアイデアで新しい試みを行う企業風土が醸成されています。
それを象徴するのが「プティ アッシュ」とリユースやリメイクの企画商品です。
「落ちこぼれたものを違う観点から見て、違う商品にする。」ことを意図されたものです。
布のキズに刺繍やプリントを施してリメイクしたトートバッグや、
キズの部分を除いて継ぎ接ぎしたウェアなど。
これらは、高度な職人技術によって、リメイクやリユースではなく、
デザインされたような完成度を誇ります。
これらの商品は、期間限定でパリのエルメス本店で販売され、
すぐに完売になったそうです。
Price
価値と価格のバランス
Productの部分でも触れましたが、エルメスは職人の手仕事を最も大切にするブランドです。
従業員9500名のうち4000名を職人が占めるのです。
それだけに、職人が最も創造的で情熱的にモノづくりができる環境に
徹底的な投資がされているのです。
そのコストは、もちろん商品の価格に反映されるのですが、
結果的に価格が高くなっても、「それ以上の価値提供ができる」という思いが、
エルメスのスタンスなのです。
その価値提供が、世界中で支持を受けていることが、
単なる殿様商売ではなく、価値と価格のバランスが取れている証拠かもしれません。
職人の育成
アメリカや日本では、「職人」というとこんなイメージがあるかもしれません。
「単純労働やマニュアル業務」
しかし、エルメスの職人の位置づけは大きく変わります。
「柔軟な創造性と新しい挑戦」
これらが求められ、職人を世界中に研修させる機会を与えています。
・インドの砂漠での遊牧民との交流
・アマゾンの部族との交流
・日本の職人との交流
⇒そこから新しい商品や技術が生み出されることもあるのです。
これらの人材育成に、潤沢な投資をしているのです。
アフターサービス
エルメス製品が高額である理由の1つに、徹底的なアフターサービスが挙げられます。
エルメスのバッグは、一個一個、どこのアトリエで製作されたかがわかるようになっています。
- 個人の名前がわかる記号
- アトリエを指すアルファベット
- 作った年月を記載した数字
これらが、製品一つ一つに刻印されています。
驚くべきは、何かトラブルがあれば、作った現場をさかのぼることはもちろん、
それを作った職人・本人が修理を対応するのです。
分業制の生産では不可能な対応です。
商品を1から10まで一人の職人が作り上げる技術があってこそのサービスです。
実際に、顧客と職人が出会うことはなくても、
暖かみのある絆が生まれますよね。
Place
フランスにこだわる
「エルメスはフランスの職人文化の中にある」
という思想が反映されて、
エルメスは「メイドインフランス」にこだわり続けています。
フランスという地を離れることで、
- コストの低い国で生産する。
- 機械でオートメーション化する。
などの利益拡大や生産拡大は可能です。
しかし、そのような選択肢を取らない点にブランドのフィロソフィーが現れています。
世界に開かれたブランドであり、
職人たちもインターナショナルな感性を持ちながら、
フランスという土地にこだわり続けることで、ブランド価値を高めていると言えます。
ライセンスビジネスはしない
ライセンスビジネスとは、
あるブランドが、他の国でのブランド使用権をライセンスとして許諾し、
使用権に対して対価を受け取るビジネスです。
要は、ブランドのネームバリューという資産を、
使用権として切り売りするビジネスです。
過去には、
<クリスチャン・ディオール>などが、このビジネスモデルで成功を収めました。
しかし、この方法には大きなデメリットもあります。
それは、ビジネスの拡大に伴い、本国のブランドのチェックが行き届かないところまでデザインやアイテムの幅が広がることで、価格や品質が玉石混交になってしまうことです。
もちろん、エルメスはライセンスビジネスを手掛けません。
その理由に対して、社長のデュマ氏はこのように語っています。
「いいものしか出してはいけない。
悪いものを出して、もし売れてしまったらどうするのか。
取り返しのつかないことになる。」
「成長することを恐れ、成長しないことを恐れ、または、
あまりにも成長しすぎて始末に負えなくなることを恐れる。」
店舗にこだわる
世界中に店舗を構えるエルメスですが、
彼らは店舗における「ブランドの世界観の表現」という点において、
確固たる意思を持っています。
彼らの店舗は、その地の文化に根付くものとして、
著名建築家に依頼して、土地ごとに全く違う館を築いています。
- 上質で豊かな暮らしの営み
- よいものを丁寧に使いつづける楽しみ
- 最高の職人の手仕事
これらが感覚的に伝わる店舗設計になっているのです。
Promotion
宣伝をしない
エルメスは、大量消費を目的とした大規模なマーティング戦略は実施していません。
つまり、ラグジュアリーであることを宣伝するために、
俳優やモデル、セレブリティを使った広告を行い、ブランドストーリーを発信する。
そこに多額の投資を行うというアプローチをしていない。
ということです。
では、どのようなアプローチなのか?
それは、「生身の客をマーケティングする」というアプローチです。
社長のデュマ氏の言葉を借りると、
以下のような言葉がエルメスのマーケティングを端的に表してます。
「エルメスで働く人は、エピシエでありポエットであれ。」
「エピシエ=商人」
「ポエット=詩人」
商人でありながら感性を養う大切さを表しています。
エルメスの商品は、
「職人の技術」×「デザイナーのデザイン」×「販売担当の客の声」
この掛け合わせで、机上の戦略ではなく、生身の客の存在を意識しながら、自分たちが良いと思うものを作っているのです。
イベント
エルメスでは、ファッションブランドでありながら、
イベントの企画や発信を通じた顧客とのコミュニケーションを重視しています。
中には、ホームパーティをテーマに顧客を招待して、
スタッフによる合唱を聞かせる。という内容のものまであります。
何事も一流を求めるエルメスは、
パーティの合唱に対しても、一流の音楽家を招きスタッフのレッスンを行ったといいます。
また、基幹店のある銀座では、
銀座地域を巻き込んだジャズイベントを実施するなど、
地域に根をはったブランドづくりをしています。
このような企画が成功し、顧客支持を得ているのも、
軍隊のような強靭な組織体質ではなく、
人同士が有機的につながったしなやかな組織だからこそ実現しているのです。
世界共通の普遍的価値
エルメスは不況にも強いブランドだと言われています。
その由縁は、市場が不安定であるほど「エルメスという安定」が求められるからです。
- 確かな品質が保証されている。
- 誰がどう作ったのかが明らかにされている。
- 職人の技が尊重されている。
これらのブランドの姿勢が普遍的な価値を生み出しており、
その世界的に認められた値崩れをおこさない価値こそが、
最大のプロモーションでもあります。
考察
この記事を書いているうちに、
自分自身もどんどんエルメスの魅力に魅かれて、
エルメスのある豊かな生活を妄想してしまいました。
高額ではありますが、人生のうち一度は手にしてみたいです。
実際にブランドの顧客である方々は、
富裕層であることもさながら、
エルメス製品を使い込んでいくごとに感じる魅力を
感じているのかな?という思いにもなりました。
このようなブランド全体に対する共感や、
製品に対する安心と信頼は、ファッションブランドに限らず、
ビジネス全般において大切なことだと思います。
その意味でエルメスの姿勢から、
ビジネスパーソンが教訓にできることは多いのではないでしょうか?