辞める辞める詐欺をしながら会社に留まり続ける部下の心理。
「僕、会社を辞めようと思ってるんです。」
部下からそんなことを打ち明けられることは、
マネージャーをしていると少なくありません。
しかし、同じ部下から3年間で、
毎年毎年、辞職の告白をされたことは、
これまで一度しかありません。
入社して4年目のJ君が、
僕に仕事を辞めたい意思を伝えてくるのは、
もはや、期初の面談の恒例行事となっていました。
なぜJ君は、「辞める辞める詐欺」をするのか?
結論から言うと、J君は「辞めない」という選択が、
彼の本意ではないということです。
本来は、仕事を辞めて転職をするつもりだったのに、
毎年、転職活動に失敗しているというのが実状です。
そして、転職する先がなければ、
特段、今の会社を去る理由はなくなってしまうので、
結果的に詐欺的な行為になってしまうのです。
普通であれば、少なくとも転職先が決まってから上司に報告すればよいものを、
不器用すぎるJ君は、何も決まっていない状態から宣言だけを出してしまうのです。
彼が「有言不実行」になってしまうことには、
いくつか理由と、またそれによるリスクもある思います。
1.自分のことをかまってほしい。
やはり、「仕事を辞める」ということは、
職場においては重い話ですし、職場で働くメンバーにとっても注目が集まるトピックです。
当然、J君に対して、
「大丈夫?」
「なんで?どうして?」
といった質問が集まります。
このように、自分に注目が集まることは、
内容がどうであれ、一種のアドレナリンが放出されます。
なんだか、自分が人気物になったような錯覚に陥ってしまうのです。
もともと、「かまってちゃん」なタイプのJ君は、
この感覚に快感を覚えてしまったのではないかと思います。
しかし、そのように注目や同情が集まるのはほんの一瞬です。
2.同調圧力に屈してしまう。
自分の転職活動については、
周囲のメンバーにも話をしていたようです。
しかし、周りのメンバーからしてみれば、
J君がいなくなることのメリットはありません。
自分たちの業務負担が増えてしまうからです。
表向きは応援しているようでも、
本音では辞めてほしいはずがありません。
ふと、J君が弱音を吐いてしまうような場面があれば、
当然、周囲はこんな言葉をかけるでしょう。
「そんな頑張らなくていいでしょ。」
「いざとなったら、ここがあるでしょ。」
そのような同調圧力に彼の意思が揺らぐことが、
何度もあったのだと思います。
一般的だと思いますが、仮に、僕が転職活動をするとしたら、
同じ職場の人には一切相談は持ち掛けないと思います。
3.「有言不実行」によるリスク
結局、転職宣言をした後、職場にとどまった場合のリスクは、
かなり大きいです。
やはり、「彼はまたいつ転職活動を再開するかわからない」というのが全員の共通認識なので、「期を跨ぐ仕事」「多くの引継ぎが仕事」を一任しづらくなる。
というリスクです。
どうしてもこの仕事ができるのは、J君しかいないという状況ならまだしも、
案件の担当者を数名の中から検討しなければならない。
となった場合に関しては、J君が候補に抜擢される機会が減るでしょう。
それは、仕事を任せる側にも途中で放棄されたら困るという心理があるからです。
このような機会損失のリスクは大きいと思っています。
J君が転職できない理由と今の仕事で身に付けるべきこと
J君が転職に失敗し続ける理由
J君と話している中で、最も感じたのが、
彼が転職をする上での最上位目標が、
「転職すること」自体に置かれているということでした。
何をしたくて転職をしたいのかが不明確で、
今の会社に居続けたくない理由ばかりが目立った印象です。
転職先から見ても、僕と同じような印象を感じ取られてしまったのかなと思います。
大切なのは、何をやりたくて転職をしようと思うのか、
という明確な目的を持つことではないでしょうか。
今の仕事で必要なこと。
「1つのことをやりきること。」
これだけだと思います。
彼の転職活動を支援する訳ではありませんが、
何か1つのことでやりきることで得られるものは多いと思います。
例えば、
- 自分の強み、弱みがわかる。
- 自分の実績をつくることができる。
- 仕事におけるやりがいを見出すことができる。
最終的なJ君の選択
結局、J君の転職は叶うことはありませんでした。
そして、退職してフリーランスになる。
という選択をしました。
理由はいくつかありますが、
最後まで仕事にやりがいを見出すことができず。
↓
仕事を与えられる機会が減っていく。
↓
同期入社の人間と仕事レベルに明確に差がついてきてしまう。
という負のスパイラルをどうしても断ち切りたかったのだと思います。
彼がフリーランスとして現在どんな仕事をしているのか、具体的にはわかりませんが、最後まで「やりきった仕事」を与えることができなかったことは、
僕の中で後悔の一つです。