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30代ビジネスマンの備忘録。 マネジメントやマーケティングに関するビジネススキルや、サウナ、ウィスキー、時計などの趣味について。

雑誌『サウナランド』から見る欠乏マーケティング

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雑誌『サウナランド』から見る欠乏マーケティング

 

2021年2月18日に発売された雑誌『サウナランド』が、サウナ好きだけでなくSNS界隈で大きな話題を集めています。

 

編集は幻冬舎の箕輪厚介さん

デザインは元・任天堂デザイナー前田高志氏が率いるクリエイティブ集団「前田デザイン室」が担当しています。

 

この雑誌の最大の特徴は、クラウドファンディングによる自費出版で、基本的にはその支援者にリターンとして送られるという形式を取っていることです。

 

全国の書店に並んだり、オンラインで販売するような通常の雑誌で行われるような販売方法は取らず、支援者のリターン以外には一部の限られた書店やサウナ施設、そして編集部員による手売りというアナログな手法で販売が行われています。

 

その結果として、欲しくても手に入らないという人が続出し、メルカリにおいても定価の2倍以上の価格で取引されるという現象まで起こりました。

 

さながら、一時期の『鬼滅の刃』のコミックスが全国の書店の店頭から消えるという現象に近いものを感じます。

 

また、編集長の箕輪氏は意図的にそのような状態を作りだす実験として『サウナランド』のマーケティングを行っているようにも考えられます。

 

今回の記事では、そんな人の欠乏感を喚起させることで、注目度や認知を広げる『サウナランド』のマーケティング手法について考察してみたいと思います。

 

コンテンツ自体の魅力

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共感を呼ぶビジョン設定

『サウナランド』が掲げるのは、

「あーなんかどうでもいいや、好きに生きよう」という人が増える世界を目指す。

という何とも気の抜けたビジョンです。

 

しかし、日々大量の情報に揉まれ、早いスピード感で変化を求められる現代社会において、実は僕らが心の底で求めているのは、そんな社会の要請という束縛から逃れるという生き方なのかもしれません。

 

だからこそ、サウナのような何も考えず、動かず、頭を空っぽにするという行為に魅力を感じてしまうのです。

 

そして、そういった意味で僕らの感情を絶妙な解釈で言語化しているのが、このビジョンと言えます。

 

また、ビジョンを構成するための3つのテーマも的確なワードで語られています。

それが、「偏愛」「混沌」「丸裸」です。

 

  1. 「偏愛」…自分が好きなことだけを徹底的に追及する。
  2. 「混沌」…様々な背景や考えを持った人がサウナという空間に集まっている。
  3. 「丸裸」…サウナではどんな人も平等に裸である。

 

コンテンツの熱量

『サウナランド』では単なる表層的な情報ではなく、テーマの一つである「偏愛」の文字通り、頭おかしいくらいの熱量が注がれたコンテンツで構成されています。

 

全国サウナTシャツ100枚企画

→編集部員が100枚集まるまで全国のサウナTシャツを探しまわり、すべてしっかり購入しているそうです。しかも、Tシャツ一枚を撮影するために、スタジオを借りるという異常なこだわりが込められています。

 

丸裸対談(箕輪厚介×格闘家・青木真也/起業家・佐渡島庸平)

→一般人が読んでも全くついていけない込み入った話があえての大ボリュームで語られています。

 

簡単には手に入らないことによる価値

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『サウナランド』は、当初の想定を圧倒的に上回る需要を喚起しています。

それでも、その需要に迎合して配給を合わせにいかないというのは、「簡単には手に入らない」ことによって価値を生み出すという一つの戦略だと感じています。

 

  • オンライン販売はしない
  • 電子版はつくらない
  • 一般書店にはおかない

 

このようなポリシーを貫いていて、現在ごく一部の取り扱い書店かトゥクトゥクによる手売りという奇妙な販売方法に絞っています。また、メルカリなどでは約2倍の価格での取引が行われています。

 

それによって、手に入れる難易度が飛躍的にあがり、本を手に入れる為の努力が必要になります。

 

SNS上では多くの人が、まるでレアポケモンをゲットしたかのごとく「やっと手に入れた!」「〇〇書店にありました!」という報告を上げているのも印象的です。

 

まとめ

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『サウナランド』のマーケティングから感じることは、もはや現代においては商品の物質的価値というものはほとんどなくなり、一部の集団の熱狂をいかに呼び起こすのか?というのが、キーポイントになっているのだろうと感じました。

 

熱狂している個人や集団に喚起されて徐々に集まってきた人たちによってマーケットが出来上がる。それは、これまで一般的だった「機能的価値」ではなく「共感価値」をベースにして出来上がっているものだと感じます。

 

『サウナランド』という雑誌は、単にその情報に触れることが目的ではなく、手に入れることで熱狂している共同体の一部になれる。そんな感覚を呼び起こしてくれるものだと思います。

 

そして、それは誰にでもすぐ手に入るものではなく、あえて入手のハードルを上げることで、その価値を高めているとも言えます。