【企業分析】ヤッホーブルーイングから学ぶニッチ戦略【よなよなエール】
「日常でちょっとした特別感が欲しい」
- なぜかモチベーションが上がらないとき
- 変わらない日常に不安を感じたとき
- 仕事が忙しくて自分の時間が十分持てないとき
多忙な日々の生活の中で訪れるそんな感情を和らげてくれるのは、「ちょっとした特別感」だと思っています。
普段とは少し違うものに触れることで、気持ちはだいぶリフレッシュできます。
ヤッホーブルーイングの提案するビールは、まさにそんな現代を生きる僕らにジャストした価値提供をしてくれるものだと思っています。
ヤッホーブルーングとは?
長野県北佐久郡軽井沢町に本社を置くエールビール専門のクラフトビール製造メーカー(ブルワリー)。創業者は星野リゾート代表の星野佳路氏。
創業は1996年。当時は、規制緩和によって「地ビール解禁」が起こり、その大きなブームと同時に創業。このブームとメディア露出などの波に乗り、売上は1999年まで右肩上がりで成長。しかし、ブームの終焉とともに2003年まで低迷を続けます。
その後、二代目社長の井手直行氏が、コンセプトは「家庭で飲める手頃な本格エールビール」。ブランドキャラクターは「知的な変わり者」をキャッチフレーズに経営改革を実施したことで、15年連続の増収増益となり、代表作である「よなよなエール」は21年間の続くベストセラーとなっています。
「ヤッホーブルーイング」の経営フレームワーク分析
- 「ターゲット」⇒顧客
- 「バリュー」⇒提供価値
- 「ケイパビリティ」⇒リソース・オペレーション
- 「収益モデル」⇒プロフィット
この4つの切り口から分析を行っていきます。
ターゲット
ニッチな層
「100人のうち1人熱狂的なファンがいるのがよい。」という理念のもと、商品ごとに徹底的なペルソナ設定を行っている点が特徴的です。
例えば、ヤッホーブルーングのヒット作の<水曜日のネコ>のペルソナ設定にはこんなエピソードがあります。
30代前後の女性に飲んでもらおうと。職場でバリバリ仕事をこなしていて、独身もしくは結婚していても子供がいない人を想定しようと。
住まいは東横線、日比谷線沿線、駅でいうと中目黒、自由が丘。関西の方はピンとこないかもしれませんが、ちょっとおしゃれないいとこに住んでいる女性。お酒やおいしいものが好きで、ファッションにももちろんこだわりがあって、職場ではがんばっていても、家にかえったらお酒を飲んで、素になる瞬間があって、これが次の日の活力になるような。こんなふうに、住むところまで指定しちゃうくらい、かなりせまく、ペルソナ像を指定してやるわけです。
バリュー
ニッチな存在であること
ヤッホーブルーングでは、大手のビールはあえて真似はしないと言います。
逆に、他社が何かしらの理由で躊躇することをやり、ターゲットは狭めに。ターゲットを狭くしたらビジネスチャンスを失う可能性もありますが、規模が小さいからできる小回りの良さを活かすことが重要と捉えているのです。
その考えは、マイケル・ポーターの「競争戦略」を忠実に実践していると言えます。
加えて、ブランディングを意識しながらやっている点にヤッホーブルーングの差別化の要因があります。
差別化要因となるケイパビリティ
1.味/風合い
ヤッホーブルーングが得意とするのは、「エールビール」というジャンルです。
一般的なビールは「ラガービール」という種類で、スッキリ、ゴクゴク飲めるビール。一方、「エールビール」は、色や香り、味わいをゆったりと楽しみながら飲むビール。
ゴクゴクではなく、ワインのように香りと味わいを楽しむビールなのです。
どちらも、麦芽とホップから造るビールですが、香りや味わいは、まったく違います。
そのため、エールビールをはじめて飲んだ方は「これがビールなの?」と、驚かれることが多いです。
つまり、ビール市場ではこれまでコクやキレが価値だったが、ヤッホーはエールビールでおいしさに対する新しい価値を提供していると言えます。
2.ネーミング/パッケージ
- 水曜日のネコ
- インドの青鬼
- 東京ブラック
など…
他社のビールとは一線を画す独自のネーミングやパッケージイラストは、ヤッホーブルーングの特徴の一つです。
ネーミングは、代理店任せではなく、社内で専属のプロジェクトチームを作り、街頭インタビューなどから得た1000個以上のアイデアの中からブレストを行って磨き上げているといいます。
また、デザインを選ぶときは、個性的で世の中にないものが採用されています。
他社の模倣ではなく、ペルソナや商品ネーミングとデザインがマッチしているか?という部分が最も重視されています。
最終的なクリエイティブの判断は、社長である井手氏自らが行っていると言います。
3.イベント
ヤッホーブルーングの顧客とのコミュニケーションの究極の形が、ファンとの飲み会「超宴(ちょううたげ)」です。
現在はヤッホーブルーングを象徴するイベントとして成長していますが、社長の井手氏はその変遷を以下のように語ります。
最初はコアな数十人ぐらいのお客さんと一緒に飲みたい、という程度の発想だったんですが、次第にネット上で話題になり、飲み会が100人、500人と増え続け、今では5000人規模の飲み会というかイベントに育ってきました。
米国のバイクメーカー、ハーレーダビッドソンの日本法人が、熱烈なユーザー同士が日本中から集まり一緒に走るイベントを開催していますが、これを参考にしており、うちの社員とユーザーさんの交流の場にもなっています。準備には時間も手間もかかりますが、それでも社員1人ひとりに得るものは絶大だし、会社としても何十億円分のPR効果もあります。
収益モデル
小売店への卸とECを中心とした多角経営
- コンビニやスーパーへの卸
- EC
- フェスイベント
- ビアレストラン
- 軽井沢における観光産業
ヤッホーブルーイングは、ビール工場として単純に商品を生産するだけでなく、そのブランド力を活かして様々な取り組みをしています。
キャラの立ったブランディングをした商品から副次的なビジネスチャンスが生まれ、そこからさらに商品のファンを増やしていくという好循環を生み出しています。
そのサイクルが上手く回転しているからこそ、2020年のコロナ禍において、イベントの中止やレストランの休業に見舞われながらも、「巣ごもり需要」を追い風に過去最高益をたたき出すという快挙を成し遂げています。
まとめ
ヤッホーブルーイングの事例から感じることは、需要の分散化です。
今後、王道と呼ばれ大衆に支持されるという商品やサービスはどんどん少なくなり、ごく一部の人の心に刺さるものに細分化されていくと思います。
それをビールというカテゴリにおいて、先駆的に実践し結果を出しているのが、ヤッホーブルーイングの商品提案だと感じます。
この現象は、業界やジャンルに関わらず、今後重要になっていく要素であることは間違いありません。