「10YC」が挑むサスティナブルファッションの魅力。
シンプルかつベーシックなミニマルなデザインの洋服。
このジャンルのファッションは、大手のユニクロや無印良品が、最も得意な分野の一つで、広く市民権を得ています。
僕自身もミニマルなファッションは好きで、ユニクロも無印も、実際に着ることも多いですが、少し「物足りなさ」を感じることがあります。
それはなぜか?というと、そこにはファッションによって自分のアイデンティティを示すことの難しさがあるからだろうと思っています。むしろ、アイデンティティを消して、ファッションから解放されるという概念の強さも感じます。
そのような感情を持つ人は、僕以外にも少なからず存在すると思っています。
ベーシックながら、ファッションの楽しさも提供してくれる洋服。そんなマーケットの潜在需要を満たしてくれるファッションブランドの一つが今回の記事でご紹介する「10YC」です。
「10YC」とは?
2017年創業の日本の新興ブランドですが、ブランド名は10年間着たいと思えるモノづくりを示す「10 Years Clothing」というテーマが込められています。国内の職人よる高い技術とミニマルなデザイン、そして適切なプライシングが絶妙なバランスで、webを中心に話題となり、クラウドファンディングでの資金調達にも成功。今、注目のブランドの一つです。
「10YC」のビジネスフレームワーク分析
- 「ターゲット」⇒顧客
- 「バリュー」⇒提供価値
- 「ケイパビリティ」⇒リソース・オペレーション
- 「収益モデル」⇒プロフィット
この4つの切り口から分析を行っていきます。
ターゲット
「ある程度お金に余裕を持っていて、ものづくりに興味があって、自分がテンション上がる服にお金を使える層」
「10YC」のターゲティングの考え方は、コアなファンに1年に何着も買ってもらうことではありません。
そうではなく、より多くの人に1着を長く使ってもらう。といった広く浅いターゲットの捉え方をしています。
究極的に、「10YC」が目指す姿は、世界の60億人に1着ずつプロダクトを届けることなのです。
バリュー
「作る人も着る人も豊かに」
「10YC」では、洋服を着る消費者だけでなく、洋服をつくる生産者に対しても、光を当てている点が、他のファッションブランドと異なるポリシーだと感じています。
アパレル業界では、交渉のパワーバランスが、川下に行くほど強くなる傾向があります。そのため、下請けである生産者が弱い立場に置かれるケースが多いのが現状です。
そんな現状に対して「10YC」では、生産者にも適正な利益配分が可能なビジネスを行う為に、できる限り中間業者を省いた高い原価率で、モノづくりをしている点が特徴的です。
ケイパビリティ
シンプルなプロダクトとデザイン性
「10YC」の提案するプロダクトは、「シャツ」「Tシャツ」「スウェット」など、定番のものがほとんどです。
デザインも裏地にシンプルなロゴマークが控え目に入ったデザインです。
ですが、そのシンプルさが、ブランドとして発信するメッセージや提案する世界観と非常にマッチしていて、そこに絶妙なセンスを感じます。
日本の技術を活かした風合い
シンプルなデザインの中にも、日本の職人が手掛ける様々な工夫が散りばめられているのが特徴です。
縫製や編みの作業は、それぞれに強みを持った産地の工場を選び抜き、作られています。
僕自身も、「10YC」のパーカーをワンマイルウェアとして普段使いしていますが、服を着た時の着心地や、手に触れた時の風合いは、圧倒的な価値を感じることのできるプロダクトだと感じています。
製造原価の公開
製造原価の透明性というのは、現在のアパレル業界の課題でもあります。
世界では既に導入が進んでいる企業も多い中で、日本で先駆的にこの取組を行っているのも「10YC」が多くの人から共感を集める理由の一つです。
製造原価の公開に至った経緯を社長の下田氏は以下のように語ります。
僕は、大学を出てアパレルベンチャーの生産会社に入社しました。服に関心があったからその会社を選んだわけではなく、グローバルに展開しているのが面白いと思ったからです。
その会社が、納品先だった販売会社にM&Aされて、小売りと生産が一体化しました。生産会社の時は売ったら終わりでしたけど、自社生産から販売までになった時に見えるんですよね、全部。自分達が作ったものが幾らで売られていて、どれだけ売れていて、どれだけ廃棄されているかが見えるようになった時に、疑問を感じたんです。
売価3,000円の服がいつのまにか1,000円になっていたりして、お客さんにも作り手の側からしても本来いくらかわからないものを、できるだけ高く売って粗利を得ようとする、その概念みたいなものに腹が立ちました。
腹が立っていたので、製造原価を公開してやろうと。実際アメリカにエバーレーンという製造原価公開しているブランドがあって、僕らはそのブランドがすごく好きで、インスパイヤされて製造原価公開に踏み切りました。
ビジネスモデル
「D2Cファッションビジネス」
「10YC」の主戦場は、リアル店舗ではなくwebサイトです。
着心地や手触り感が、購入のキーファクターとなるアパレルにおいて、実店舗を持たないことは大きなリスクです。
しかし、プロダクトにまつわるストーリーや、世界観を伝えることで、共感によってマーケットを広げていく。という新たなマーケティングを戦略がそこにはあります。
僕自身も、「10YC」を知ったきっかけは、信頼できる人からのいわゆる「口コミ」でした。
この人が「良い」という言うんだから、間違いないな。と実感した覚えがあります。
そのように、多くの消費者がアパレルを買う時の判断基準は、
- どのブランドか?
- どの店か?
といったところから、
- 「誰」から買いたいか?
に変容してきていることを感じます。
このような既存のスキームから脱した手法は、生産者に対してもしっかりと循環する利益を生み出し、ひいては業界全体の再編の可能性も秘めていると感じます。
まとめ
「10YC」のコンセプトに「10年後も着たいと思える」というフレーズがあります。
創業からまだ3年ほどのブランドですが、彼らが提案するプロダクトが、消費者にとってまだ見えない10年後に、どのような存在になっているか?という部分を考えるのも、面白いと思いました。
そこで見えてくる「10年着倒したあとの価値」そんな洋服としての機能を越えた、新しい価値提案の可能性もあるんじゃないかと思います。