ZOOMがレッドオーシャンを制した成功要因をマーケティングトレースで分析してみた。
2020年のコロナウィルスの拡大は、ビジネスの世界においても劇的な変化をもたらしました。
その代表的な事例が、「リモートワーク」です。
そして、それをきっかけとして大きく普及したのが、ビデオ通信サービスの<ZOOM>です。
しかし、<ZOOM>の普及は、単純にリモートワークの普及のタイミングと運よく重なったラッキーだったのか?というと、決してそんなことはないと思います。
<ZOOM>の登場以前から、SkypeやTeamsでのビデオ通信のシステムは存在していました。
では、なぜそのような競合がひしめく状況の中で、広く大衆に浸透していったのか?という成功要因について、マーケティングトレースによって紐解いていきたいと思います。
<ZOOM>の基本情報
企業形態 株式会社
設立 2011
本社 アメリカ合衆国カリフォルニア州サンノゼ
主要人物エリック・ヤン(CEO)
サービス
Zoomミーティング
Zoomプレミアム音声
IM管理
Zoomビデオウェビナー
Zoom Rooms
Zoom H.323/SIPルームコネクタ
Zoom開発プラットフォーム
ユーザー数 約2億人(20年3月時点)
収益 6.22億$(20年9月時点)
従業員数
1,958 (2019)
ウェブサイト zoom.us
<ZOOM>のマーケティングトレース
理念/ビジョン
「ビデオ通信でより多くの業務を遂行できるようにする」
ライバル会社の多くが、ビデオ通信というサービスに対してコミュニケーションツールの1つとして捉えているのに対して、ZOOMは経営上の根幹としてビデオ通信を付けていることが企業理念からもうかがうことができます。
①外部環境分析
社会的背景…コロナウィルスの世界的拡大
20年においては、コロナウィルスは3月から9月のわずか約半年という期間で、指数関数的な拡大をしています。
そして、全世界で3000万人もの人が感染し、そのうち100万人が死亡しています。
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52298203
政治的背景…海外渡航や外出の規制
感染防止に向けた動きとして、政治的な働きかけとして世界中の「人の移動」に制限がかけられました。
アメリカや欧州でのロックダウン。そして、日本においても緊急事態宣言が発出されるといった結果になりました。
経済的背景…テレワークの増加
「人の移動」を制限しながら、経済は回し続ける為のアプローチとしてテレワークが大きな注目を集めました。
これまでは、一般化していなかった企業の導入が大幅に進み、「テレワーク」という働き方が大きな市民権を得たきっかけにもなりました。
技術的背景…通信技術の発達
通信技術の発達により、文字や音声にくらべ通信コストのかかるビデオ通信が、容易にできるようになりました。
②競合の定義(5Forces分析)
同じビデオ通信を提供している直接競合と、ビデオ以外のコミュニケーション手段や人同士が対話する為に必要な移動手段などを価値競合と位置付けることができます。
③ターゲティング/重点顧客
20~50代の働く男女
- テレワークを導入している。
- グローバルに取引がある。
- 大人数のチームで仕事をしている。
- 簡潔で効率的なワークツールを望む。
- 必要な部分にはコストをかける。
- 広く認知されているものを好む。
④ポジショニング
縦軸にはビデオ通信に特化度合い、横軸に内向きか外向きかという2軸によってポジショニングを設定しています。
縦軸における特化度合いでは、ビデオ通信を前面的に謳っている<ZOOM>や<skype>が該当します。また、複合型という部分ではteamsなどビデオ通信も一機能として備えていますが、チャットなどがメインの用途として認識されているツールもあります。
横軸においては、コミュニケーションの相手が社内(身内)、社外(外部の人)のどちらに比重が置かれているのかを示しています。
アカウント登録やチームの作成などが必要な<teams>や<skype>は、身内のコミュニケーションの充実に比重が置かれています。
一方、<ZOOM>では、事前登録などが無くても、すぐに招待→参加が可能です。
これらの性質によって、「ビデオ通信=ZOOM」というポジションを築いていると言えます。
⑤マーケティングミックス(4P)
Product…間口の開かれた音声配信プラットフォーム
→アプリのダウンロードをしなくても招待を受ければ利用ができるという点で、ユーザーの間口が広いサービスと言えます。
Price…フリーミアム
→利用時間や条件などによって有料課金が必要ですが、基本的なサービスはほぼ無料で利用できるという点で、こちらもユーザーとの接点を拡大している要因となっています。
Place…問わない
ネットの通信環境があれば、どこでもサービス利用は可能です。
つまり、場所や距離という制約からの解放を意味します。
Promotion…ビルボード
意外にも初期のZOOMの最大の広告手段は、シリコンバレーにおける看板広告でした。
リアルな場所に多額の投資を行い、アナログな宣伝方法を活用することで、ブランド認知を拡大するというスタートアップらしい泥臭さが垣間見えます。
⑥成功要因
・ビデオ通信の機能や操作性について徹底的に特化
・アプリDLやユーザ登録不要で利用可能という間口の広さ
⑦自分がその会社のCMOだったら?
<ZOOM>はビデオ通信に特化してポジションを築いてきた企業です。
今後においても、多面的なサービス拡大路線より、既存サービスの品質を圧倒的に向上させていくことが、ユーザー視点に立っても求められることだと思います。
その方法としては、他のビデオ通信も含め、精度がまだまだ開発段階の機能を進化させることだと思います。例えば、字幕の文字起こしや翻訳機能の精度を各段に向上させることです。
まとめ
今回<ZOOM>のマーケティングトレースを行ってみて感じたことは、1つのジャンルに特化してサービス品質を高めることの有用性。そして、社会的な要請との重なりというタイミングを押さえることが、爆発的な普及につながるということを改めて感じました。
まさに、社会から求められるものは何か?
そして、それをとことん突き詰めること。
その重要さと簡単に語る以上の難しさを同時に感じました。