「努力」はすべきでない理由。
元大物お笑い芸人の島田紳助氏は、
後輩芸人たちにこんな言葉をかけていたといいます。
「努力をするな!」
この言葉をするところは、漫才の稽古に明け暮れることで、
自分たちが「売れない」ことに対する不安を払拭して安心しているようでは、
ダメだ。ということです。
つまり、
「正しい努力をしろ。間違った努力をするな。」
という意味合いで受け取ることができます。
しかし、
- 正しい努力
- 間違った努力
という表現は、非常に曖昧でわかりづらいです。
だからこそ、紳助さんはシンプルに「努力をするな」という表現を使ったのだろうと、
推測します。
紳助さんの本来考える「正しい努力」とは、
どんなことなのでしょうか?
本人のエピソードを引用しながら、
具体的に解説したいと思います。
不毛な努力をするならまずは、「笑いの戦略を立てろ」と紳助さんは言う。
お笑いというのはマーケットであり、実は競合がいるんだと。
紳助さんの当時だとB&Bだとかツービートだとかオール阪神・巨人といった面々がいるなかで、彼らがお笑いのマーケットでどういうポジショニングをとっていて、
自分の笑いのセンスや見た目だったら、誰のポジションの近くだったら取れるか、
芸能人でどこのポジションが狙えるのかと、それだけを考え続けろといってるんですね。
紳助さんが実際に何をやったかというと、
まずは売れている芸人の漫才をすべて録音して書き起こして、
どこでどうボケて、そうツッコミ、そういう種類の笑いを取っているのか、
ということを分析していく。
すると、
「落ちのパターンは8割一緒」
「つまらないネタを直前に入れると面白いオチが光る」
といった具合に言語化が可能になるんですね。
紳助さん自身は「お笑いに教科書がなかったので、自分で教科書をつくろうと思った」
と言ってますけど、もう完全に笑いの経営学なんです。
だけど、それをほかのみんなはやらない。
なぜかというと、努力していると安心するからです。
「山口 周」
ビジネスマンにおいても同じことが言える?
意識が高く努力を怠らないビジネスマンの中にも、
「正しい努力」ができていない人は多いのではないでしょうか。
資格や学位のコレクターになってしまい、
実務では成果が出せていないビジネスマン等は、
ひたすら稽古が励む売れないお笑い芸人と重なる部分があります。
リアルなビジネスシーンでは、以下のようなことが言えると思います。
- 「正しい努力」⇒「成果が出せる」
- 「誤った努力」⇒「作業だけが得意になる」
「成果が出せる人」になる為には?
紳助さんの話にもありましたが、
自分の目標とする人を観察する「人間洞察力」です。
ビジネスの中で、意外と多くの人が見逃しているのがこのポイントです。
自分の目標とする人は、
- どうやってメモを取っているのか?
- どんな言葉でクライアントに質問しているのか?
- どんな風に会議の取り回しをしているのか?
- 鞄の中身はどんなものが入れているのか?
これらの行動を注意深く観察し、徹底的に分析することで、
自分に足りないものや、やるべき方向性がクリアになってきます。
人間洞察の重要性
機械学習やデータ分析が発達する現代ですが、
それらのデータの重要性もさることながら、
洞察による「直感」がという人間しか持ちえないセンスが、改めて見直されています。
その事例を2点ご紹介します。
「Suica」の改札機デザイン
Suicaは今でこそ一般的に普及し、日常生活に溶け込んでいます。
しかし、Suica導入期で切符が主流だった当時は、
そもそも電車の利用者に「カードを端末にタッチさせること」や「タッチの際は、歩くスピードを少しスローダウンしなければならない」という行為を促すことに、JRは非常に苦労したとのことです。
その難問を、「人間洞察」の観点から解決したのが、
東京大学の山中教授です。
山中教授は、観察により人間の本能を理解した上で、
Suica改札機に2つのデザインを取り入れました。
・「人間は光るものに反応する」という本能を利用し、
端末のタッチ部分を光るようなデザインにした。
・「人間は、ちょっと傾いていると少し速度を落とす」という本能を利用し、
タッチ部分を少し斜めに傾けてデザインした。
レゴブロックの衰退と回復
レゴ社は、当時売上増加の為、
対象顧客である子どもたちに向けて大規模なデータ収集を実施しました。
その結果は、子どもはテレビゲームなどの高刺激のものに、強い興味を示す。
という内容のものでした。
そこでレゴ社は、これまでの「ブロック」という少し地味なおもちゃから脱却し、
ディズニーのようなキャラクタービジネスを目指しました。
しかし、その方向転換は大きく失敗し、レゴ社は赤字転落。衰退期を迎えます。
そんな中、データ収集による分析だけではなく、
しっかりと子どもの遊ぶ様子を観察するという試みが行われました。
すると、子どもは刺激のあるテレビゲームだけでなく、
「ブロック」にもしっかり興味を持って遊んでいたことがわかりました。
その後、「ブロック」という原点に戻ったレゴ社の業績が大きく回復していきました。
考察
「誤った努力」で安心していないか?
という紳助さんの言葉は、自分にとっても思い当たる節が多々あり、
胃が痛い言葉でした。
そして、「正しい努力」とは、洞察に基づく「抽象化」の力だと感じました。
1つも物事を見て、それをどう捉えるか?そして、自分に当てはめるとどうなのか?
というのは、非常に感覚的でセンスの要素の強いものだと感じます。
しかし、それも習慣化や訓練で身につくものではないでしょうか。
そのような「正しい努力」でこれからも邁進していきたいと思います。